これまでの歩み

2019.01.11 瀬居島の島メシ


せとうちのしおり#30




瀬戸大橋のたもとにある与島地区の各島(沙弥島、瀬居島、櫃石島、岩黒島、与島)で古くから食べられている郷土料理を「島メシ」と呼んでいます。
瀬戸内国際芸術祭2016では、地元の方々がこの「島メシ」をテーマにしたお弁当を作って来場者に販売しました。
行列ができるほど大人気となった「島メシ」の文化や歴史について、坂出市産業課にぎわい室の谷本祐司さんのナビゲートで、与島地区5島のひとつである瀬居島の自治会のみなさんにお話をうかがいました。





まずは、みなさんにふだんの食生活についてうかがいました。
「岩黒島には茶粥があるけど、ここいらは茶飯(ちゃめし)にこんこ(たくあん)。朝になったら“朝ごはん食べましたか?”のかわりに“茶飯やったか?”が挨拶やった。米と麦の半々で炊いて、それに番茶をかけて食べてた」と濱田さん。

それを聞いて「うちではサツマイモを入れて炊いたりしてたな」と話してくれたのは東條さんです。

「お茶も作ってたんですか? 昔の写真を見たら、山に木が生えてないくらい全部畑ですね」と谷本さん。
「お茶を作っていたというのは聞いたことがないけど、畑ではイモと麦、あとは除虫菊も育ててた」とみなさん。


このあたりの海は潮の流れが早く良質な漁場があるため、瀬居島には昔から多くの漁師さんたちがいました。そんな漁師さんたちが船上でつくる「船メシ」という料理もあったそうです。
木造船の中には火を炊けるおくどさん(台所)があったというから驚きです。


「船では真水が貴重だったので、米はまず海水で洗ってから真水で炊く。そうするとちょっと塩味がしてうまい。おかずは売れない魚を煮物にしたり、持っていった野菜などを調理して。船の上で干した魚の干物は家族へのお土産に持って帰っていたな」と話すのは、ベテラン漁師の東條さん。


行事のときにはどのような料理が出たのでしょう。
「昔は法事は各家庭でやっていたから、座布団も食器もたくさんあった。親戚中の女性が集まって、前日から料理の準備をして。親戚が少ないところは大変だったと思う」とお母さんたち。

「いぎす豆腐に、ばら寿司か巻き寿司やろ」「煮しめとなますは絶対入ってた」「あとは、お吸い物もあったな」と口々に法事での定番料理が出てきます。
なますの具として使われていたのは、ノウソ(サメ)やヒラ(シイラ)、ニベ、グチといった売り物にならないような魚で、大根やキュウリなど、季節の野菜が入ることもあったそうです。





あまり聞き馴染みのない「いぎす豆腐」とはどんなものでしょうか。
「いぎすという海藻でできた豆腐で、それだけでは味はないからごま味噌をつけて食べたな。まぁ精進料理やな」





「これが、いぎすですよ」。
袋を開けたとたん、海の香りが広がります。左の黒いものを2〜3回干してさらしたら、右のように白くなるそうです。

「7月の終わりから8月10日くらいまでの間、潮が引いたときに近くの浜に流れてくるいぎすを取りにいくのは子どもの仕事。それを女性たちが干す・さらすを何回も繰り返してザルでこして砂をとって。作るのは大変やった」と教えてくれたのは須鼻さんの奥さんです。


その一方でお大師市や秋祭、結婚式などのお祝いの席には、鯛そうめん、天ぷら、ばら寿司、巻き寿司、押し抜き寿司など、豪華な料理がずらりと並びました。
祝いの日の料理も、お客さんを迎えるため、各家庭の女性たちが一生懸命作ったそうです。


「3年前の芸術祭のときに、みなさんで鯛飯を作ってくれましたが、鯛飯は普段から食べてるんですか?」と谷本さん。

「鯛飯は何かの行事のとき。鯛そうめんの方が普段から食べるな。 “麺で鯛”ということで、おめでたい日の料理。結婚式とか、お祝いの席では、最後に“取り込み”言うて、大きなお皿にそうめんと鯛をのせて、皿を揺らして歌を歌ってもってくる。麺は長いやろ。“永らえるように”という意味もある」。





先祖まつりのときに作られたという大皿の鯛そうめんの写真を見せていただきました。そうめんの上に大きな鯛と卵がのった、豪快な料理です。

「食べるときに鯛の身はほぐしてわけて、鯛を煮たときの汁をかけて食べるんや。家庭によって違うけど、鯛のお腹の中に卵を入れて一緒に炊くところもある。お腹に卵を入れると形がきれいに見えるでしょう」。

うずらの卵かと思いきや「いやいや、ニワトリです。どれだけ大きな鯛かわかるでしょう。2キロくらいはあったな」。

鯛の話は、瀬居小学校の校歌の歌詞にも出てきます。


“瀬戸の島山 春たけて
行き来の舟も にぎやかに
金隣おどる 桜鯛
群がる海を ながめつつ”


昔から鯛がこの近くでよく獲れていたという証。はえなわ漁で鯛を専門で獲りに行く船団もいたそうです。





瀬戸内国際芸術祭2016で販売した瀬居島島メシ弁当は鯛飯、味付けしたタケノコやカボチャ、ワカメの芯をあげた天ぷら、キュウリとキャベツの昆布あえなど、地元で採れた食材を使用し、500食のお弁当を10名ほどで作ったそうです。





瀬戸内国際芸術祭2019でも来場者に喜んでもらおうと、ただいまメニューを検討中だそうです。
「天ぷらはエビやアナゴにしたらどうや?」「ネバネバのめかぶ丼は体にもいいし、おいしいと思う」。
瀬居島地区自治会のみなさんのアイデアはつきません。


海の恵みとそこに暮らす人たちの知恵から生まれる、瀬居島の豊かな食文化。
瀬居島を含む与島地区5島については「与島地区5島〜陸続きになった2つの島と瀬戸大橋で結ばれた3つの島〜」の記事も、ぜひあわせてお読みください。

前のページ
一覧表示
次のページ