これまでの歩み

2018.06.15 【話が聞きたくて】島で暮らすように過ごす


せとうちのしおり #2




瀬戸内国際芸術祭をきっかけに、豊島の自然やアートそして島の人たちのあたたかさに魅了され、豊島での宿泊を希望する人が増えました。


そこで、「島の人たちが使っていない部屋や空き家を利用して観光客が泊まれる場所をつくり、島の暮らしや文化、農業・漁業を体験してもらおう」という動きが起こり、2012年に「農林漁家民宿」が始まりました。

現在、泊まることができる家は9軒。郷土料理づくりや漁業・農業などの体験ができます。

まるで島で暮らしているような気分になれる農林漁家民宿。
島の人たちは、どのような思いでゲストを受け入れているのでしょうか。


※これ以降「農林漁家民宿」のことを「民宿」と表記します。




アートを鑑賞しに豊島を訪れるようになったのは、都会の人や若い人だけでなく、外国人もたくさんいます。

それまでは島民同士の交流がほとんどだった豊島の人たちも、今では外国人とのコミュニケーションを楽しむようになりました。


中には、77歳にしてオーストラリア人との旧交を温めた人もいます。


「こないだね、5年前に来たオーストラリアの人がまた泊まりに来てくれたのよ」とうれしそうに話すのは、山根八重子さん。
夫婦で商店を営んできましたが、民宿の話を聞いて、亡くなった両親が住んでいた空き家を活用しようと思ったそうです。

現在は、商店をご主人にまかせて、民宿のほうは八重子さんが準備をすべて行っています。


「最初は、どんな人が来てくれるんだろうかと不安だったけどねぇ」と八重子さん。
記念すべき最初のお客さんが、日本人ではなくオーストラリアからのお客さんだったそうです。


「予約の時は食事は不要とのことだったんやけど、夕方にカップ麺を買ってきて食べようとしているのを見て、放っておけなくてね。それで、その場でお好み焼きをつくってあげたんよ」


その味と八重子さんの優しさが忘れられず、ゲストは5年後にオーストラリアの家族を連れて再び訪れたそうです。





テーブルの上のノートには、これまでに泊まった人たちが書いたメッセージが。


「ご飯がおいしかった!」「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう」といった感謝の言葉があれば、外国語で綴られた長文の手紙も。
言葉は通じませんが、お客さんが持参したスマートフォンの翻訳機能のおかげでコミュニケーションには問題ありません。


民宿を始めてから八重子さんがますます精を出していることがあります。
それは、畑仕事。
食事を提供することが多いため、年間を通じていろいろな野菜や果物をつくるようにしています。


「手間はかかるけど、農作物は種から育ててるんよ。それに加えてこの地域の土は砂地なので農作物がよく育つから、食べた人はみんな『味が濃い!』と喜んでくれる」


畑ではニワトリも飼育され、朝ごはんはその卵をご飯にかけて食べるそうです。





「主人は商店、私は民宿をボケ予防のつもりでやっている」と笑う八重子さんですが、きれいに手入れされた畑を見ると、泊まりに来る人たちにおいしい野菜や果物を食べてもらおうとがんばっているのがわかりました。





「瀬戸内国際芸術祭や民宿が、豊島に戻るいいきっかけとなった」と話すのは、小豆島から実家のある豊島に戻ってきた生田清人さん(56歳)。


それまでは、小豆島で家族とともに暮らしてきましたが、大好きな豊島で家業の漁業を継ぎたいという気持ちが高まり、瀬戸内国際芸術祭や民宿のスタートを機に豊島に戻ってきたそうです。


現在は、漁師や港の荷受け仕事などをしながら、民宿をしています。


漁師と港での仕事の合間に民宿をする生田さんは、春から秋は多忙な日々を送っています。


それでも民宿を続けるモチベーションは、「豊島のおいしい魚を食べてほしい」という気持ち。
希望があれば漁業体験として一緒に魚を獲りに行き、その魚を使って一緒に夕食をつくることもあるそうです。


魚の捌き方や漁師ならではの調理法を教えてあげることで、ゲストに「豊島の魚はおいしい!」と言ってもらえるのがなによりの幸せです。


もうひとつ、生田さんが民宿をやっていてよかったと思うことは、都会の人と触れ合えること。


「僕はずっと田舎で暮らしてきたから、都会の人たちと触れ合うのが新鮮なんよ。今は、複数のSNSやホームページを公開しているけど、それらは全部、東京などの都会から泊まりに来てくれたお客さんから使い方を教えてもらったんよね。それがきっかけで、今ではSNSで気軽に情報発信できるようになった。民宿を始めてから、普段は会えない人に会えるようになった」


生田さんは、ゲストに瀬戸内国際芸術祭の作品づくりに関わった経験談や島の伝統文化について話すことで、ただ島をめぐるだけではわからない豊島を感じてもらうようにしています。


その親切心がゲストの心を打ち、生田さんの家には、年に一度、また月に一度といった頻度で、定期的に泊まりに来る人がいるそうです。


そんな人たちに「おかえりなさい」と言える場をつくるため、生田さんは忙しい毎日を過ごしています。


他にも、郷土料理のつくり方を教えてくれたりジャムづくりが体験できたり五右衛門風呂に入れたりと、いろいろな民宿があります。


また、豊島には2つの港があり、高松や小豆島、直島などの島々とつながっています。


瀬戸内国際芸術祭でアートをめぐった後は、豊島の民宿の家に「ただいまー」と言って帰り、その日の出来事を島のおとうさんやおかあさんに話す。


豊島に泊まれば、まるで島の住民になった気分で過ごすことができるのです。

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